
「とりあえず機器を変える」を卒業するために|3か月・1年・3年で回す改善サイクル
【この記事のポイント】
- 「ネットワーク改善」を、回線やルーターの入れ替えではなく、「現状の見える化→課題と原因の整理→対策の優先順位づけ→小さく検証→展開・定着」という一連のプロセスとして捉え直せる
- ネットワークが“なんとなく不安定”なときに、最初の1〜2週間でやるべき具体的なアクション(ログ取得・速度測定・ヒアリング・構成図の更新・簡易チェックリスト作成)がイメージできる
- 実体験と現場の声から、「場当たり的に機器を足していた頃」と「分析→設計→実行のサイクルを回すようになってから」の日常の違いが、感覚レベルで伝わってくる
今日のおさらい:要点3つ
- 一言で言うと、ネットワーク改善の進め方は「現状を“数字と図”で見える化してから、原因と優先度を決め、小さく試してから本番に広げる」ことです
- 最も重要なのは、「①現状分析(見える化)」「②課題の整理(どこが・どんな頻度で・どれくらい問題か)」「③対策の設計と実行(検証→展開→定着)」を分けて考えることです
- 失敗しないためには、“一気に全部良くしよう”とするのではなく、「3か月でここまで」「1年でここまで」と段階ごとのゴールを決め、途中で必ず“振り返り”を入れることが欠かせません
この記事の結論
一言で言うと「ネットワーク改善は、“とりあえず回線・機器を変える”のではなく、現状分析→課題整理→対策設計→検証→本番展開→定着・運用改善というプロセスを、小さく・何度も回すこと」です。
最も重要なのは、「①現状を定量化する(速度・遅延・トラフィック・障害・構成)」「②“どこで・いつ・誰に”問題が起きているかを切り分ける」「③費用対効果とリスクを考えた優先順位で、検証→段階的ロールアウトを行う」の3ステップです。
失敗しないためには、“最新機器を導入すること”をゴールにせず、「ユーザーの体感」「障害件数」「運用負荷」がどう変わったかを追いかけ、必要であれば計画を修正しながら進める柔らかさを持つことが大切です。
ステップ1 現状分析(見える化)から始める
① 構成・台数・回線の「棚卸し」
最初にやるべきは、“今なにがどれくらい動いているか”を把握することです。 ここを飛ばしてしまうと、その後の対策が運任せになります。
最低限、次の3つは書き出しておきたいところです。
構成図
- どの拠点・フロアに、どんなルーター・スイッチ・APがあるか。
- 回線(光・専用線・インターネットVPNなど)の本数と帯域。
機器・端末の台数
- ネットワーク機器(ルーター・スイッチ・FW・AP)の一覧。
- クライアント端末(PC・スマホ・タブレット・プリンタ・IoTなど)の台数。
回線・契約情報
- 回線の種別(ベストエフォート/帯域保証、有線/無線など)。
- 契約帯域・プロバイダ・契約更新時期。
正直なところ、この「棚卸し」をやってみると、
- すでにサポート切れの機器が平然と現役で動いている。
- 使っていない回線やハブがそのまま生きている。
といった“ホコリ”が必ず出てきます。
② 障害・遅さ・不満の「見える化」ログを集める
次に、「どんな問題が、どのくらいの頻度で起きているか」を集めます。
客観データ
- 回線の実測速度(時間帯別)。
- 主要ルーター・スイッチのトラフィック量とエラー。
- 障害件数と復旧時間(過去3〜6か月)。
主観データ(現場の声)
- 「どの時間帯に」「どの場所で」「どのシステムが」「どのくらい」影響を受けているか。
- “なんとなく遅い”を、可能な限り具体的なシチュエーションに落とし込む。
ここで大事なのは、「困っていますか?」と聞かないこと。 代わりに、
「どんなときに、検索窓に“ネット 遅い”って打ちたくなりますか?」
「最近、作業中にため息が増えるのはどの場面ですか?」
のように、“その悩みのせいでついしてしまう行動”や“ふと漏れる言葉”を聞きにいく感覚です。
【実体験1】ログより先に、ため息の場所を探したら見えたこと
ある現場で、ネットワーク改善の相談を受けたときのこと。 きれいなグラフと監視レポートを見せてもらったのですが、どうもピンと来ませんでした。
そこで、執務室をひと回りしながら、数人にだけこう聞きました。
「いつ、どんな作業をしているときに、思わずため息が出ますか?」
返ってきたのは、
- 「オンライン会議の画面が固まったとき。」
- 「クラウドの業務システムにログインするとき。」
- 「朝礼の前に勤怠を打とうとしたら、なかなか画面が開かないとき。」
という答え。
それをメモして時間帯別に並べたら、ちょうど朝9時前後と15時前後に集中していました。 改めて監視グラフを見ると、その時間帯だけトラフィックが不自然に跳ねていたのです。
正直なところ、「グラフはきれいなのに、現場は苦しそう」という違和感は、“数字の見方”ではなく“数字の聞き方”を変えるだけで解消することがあると学びました。
ステップ2 課題の整理と原因の切り分け
③ 「どこで・いつ・誰に」起きているかをマトリクス化
現状データが集まってきたら、次は「課題の棚卸し」です。 ここでのポイントは、
- 全部を一緒くたにしない。
- エリア/時間帯/ユーザー/システムごとに分ける。
こと。
簡単な表で構いません。
- 行:エリア(本社・拠点A・会議室・倉庫など)
- 列:時間帯(朝・昼・夕・夜)
- セル:影響を受けているシステムや業務、頻度・深刻度
を書き出すと、「どこから手を付けると一番効果が大きいか」が浮かび上がってきます。
④ ネットワーク側/システム側/運用側のどこに問題があるか
課題が整理できたら、「それは本当にネットワークの問題なのか?」を冷静に見極めます。
ネットワーク側の問題
- 回線帯域不足、機器の性能不足、構成ミス、電波・配線の問題。
システム側の問題
- アプリの応答遅延、クラウド側の負荷、DBチューニング不足。
運用側の問題
- 更新やバックアップのタイミング、利用ルールの曖昧さ。
「ネットが悪い」と言われたとしても、実はアプリケーションの設計やクラウドサービスの制限が原因、というパターンも珍しくありません。
実は、“ネットワーク改善プロジェクト”と銘打ってスタートしたのに、終わってみたら運用ルール改善とアプリ側の改修がメインだった、というケースもあります。
【現場の声】「よくあるのが“とりあえず回線のせい”にされること」
ネットワーク担当の人と話していると、こんなぼやきをよく聞きます。
「正直なところ、何か遅いとまず“ネットが悪い”と言われがちなんですよね。」 「実は、調べてみるとアプリの処理待ちだった、ということも多いんです。」
このギャップを埋めるには、
- ネットワーク側で測った遅延・帯域・エラーの数字。
- アプリ側のログやレスポンス時間。
を並べて、「どこに待ち時間が発生しているか」を説明できるようにしておく必要があります。
“原因の切り分け”は、ネットワーク担当が自分の身を守るためだけでなく、正しい投資判断をしてもらうためのコミュニケーションでもあります。
ステップ3 対策の設計と優先順位づけ
⑤ 「今すぐやること」と「半年〜1年スパンのこと」を分ける
課題と原因が見えてきたら、次は対策です。 ここでやりがちなのが、「全部を一気に良くしよう」として計画が重くなり、何も進まなくなること。
おすすめは、対策を3つのバスケットに分けることです。
バスケットA:今すぐやる(〜3か月)
- 設定変更、APの移動、不要機器の撤去、バックアップ時間の変更など。
バスケットB:中期でやる(3か月〜1年)
- 回線増強、主要機器のリプレイス、ネットワーク分離、監視強化。
バスケットC:長期で考える(1〜3年)
- 全体構成の刷新、クラウド接続方式の見直し、ゼロトラストやSD-WAN導入など。
正直なところ、“全部やる”と決めてしまうと、現場のリソースは足りなくなります。 「今はここまで」「次の改定でここまで」と線を引くことも、改善の一部です。
⑥ 費用対効果とリスクで優先順位を決める
対策案を並べたら、「どれからやるか」を決めます。 このときの軸は、だいたい次の3つです。
効果の大きさ
- 何人に/どの業務に/どれくらい効くか。
実行コスト
- 費用(回線・機器・サービス)、工数、停止時間。
リスク低減
- 障害発生時の影響範囲、セキュリティリスクの大きさ。
たとえば、
- 「会議室のAP追加」は、費用も工数も比較的少なく、Web会議のストレスを大きく減らす。
- 「コアスイッチの冗長化」は、普段は目に見える効果が少ないが、大規模障害リスクを大きく下げる。
こういった性質の違いを並べて、「短期的な体感改善」と「中長期的なリスク低減」のバランスで決めていきます。
【実体験2】「正直、まずは会議室から」だった案件
ある会社でネットワーク全体の見直しを依頼されたとき、最初のヒアリングで経営層から
「実は、まずWeb会議のストレスをなんとかしたいんです。」
と言われたことがあります。
こちらとしては、冗長化やセキュリティ分離も気になっていましたが、日々のストレス源として一番大きかったのは「会議室のWi-Fi不安定問題」でした。
そこで、
- フロア全体の再設計は“1年計画”。
- 会議室のAP追加と回線調整は“3か月計画”。
に分けて提案したところ、
「ケースによりますが、そこまで段階を分けて考えてもいいんですね。」
と、CIOが安心した表情をしていたのを覚えています。
「全部やらなきゃいけない」のは事実でも、「全部いっぺんにやる必要はない」と伝えることも、ネットワーク改善の大事な一歩だと感じました。
ステップ4 小さく検証してから本番に広げる
⑦ 検証環境や一部拠点で「試す」
いきなり全拠点・全社で新しい構成を導入すると、想定外の不具合が出たときの影響が大きくなります。 そこで、できる限り
- 小さな検証環境(テスト用ネットワーク)。
- 一部拠点や一部フロア。
から新構成を試します。
検証時に見るべきポイント:
性能
- 遅延・スループット・CPU負荷・トラフィックの推移。
安定性
- 再起動や回線切替時の挙動。
- 障害時に想定通りフェイルオーバーするか。
運用面
- 設定手順の分かりやすさ。
- 監視・ログの見え方。
- 現場担当者が「これなら回せそう」と思えるか。
実は、“技術的には正しい構成”でも、運用手順が複雑すぎて現場が回らなければ、長期的には失敗に近づきます。
⑧ 本番展開時の「切り戻し」と「説明」
本番に導入するときは、
- 事前の告知(何がいつ変わるのか)。
- 作業手順とタイムラインの共有。
- うまくいかなかった場合の“切り戻し手順”の用意。
が欠かせません。
正直なところ、ネットワーク改善で一番怖いのは「業務時間中に想定外のトラブルが起きて、戻すこともできずに詰む」ことです。
「最初は半信半疑だったけど、ちゃんと“戻れる前提”で作業してくれるなら、任せやすいです。」
と、ある現場の担当者に言われたことがあります。 技術的な設計だけでなく、“人が安心して見ていられる改善プロジェクト”にすることも重要です。
よくある質問
Q1:最初に回線から変えるべきですか?機器から変えるべきですか?
A1:まずは「有線・無線での実測」「トラフィック・エラー」「利用シーン」を見て、ボトルネックが回線なのか機器・構成なのかを切り分けたうえで判断するのがおすすめです。勘でどちらかを変えるとムダになりがちです。
Q2:小さな会社でも、ここまで本格的にやる必要がありますか?
A2:規模が小さくても、“現状の棚卸し→課題の整理→優先順位づけ”という流れは同じです。項目数を減らしてスリムにしても、プロセス自体は踏んでおいた方が、将来のトラブルを避けやすくなります。
Q3:何ヶ月くらいを一つの改善サイクルの目安にすればいいですか?
A3:現場の負荷にもよりますが、「小さな改善は3か月単位」「構成全体の見直しは1年スパン」で考えると、無理なく回るケースが多いです。途中で1回は“振り返り”の場を設けると、次のサイクルが回しやすくなります。
Q4:専門的な監視ツールや診断サービスは、どの段階で導入すべきですか?
A4:自前のログや簡易測定だけではボトルネックが特定しづらい場合や、拠点が増えて“人の目だけでは追えない”と感じ始めた段階で検討すると効果的です。いきなり高機能なツールを入れるより、目的と必要な指標を決めてから選ぶのが良いです。
Q5:ネットワーク改善にどれくらい予算をかけるべきか分かりません。
A5:障害による機会損失(1時間止まるといくらの影響か)、人件費(障害対応や“待ち時間”にかかっているコスト)、将来の拡張計画をざっくり数字にしてみると、“このくらい投資しても元が取れるライン”が見えやすくなります。
Q6:社内だけでやるのと、外部に相談するのでは何が違いますか?
A6:社内だけだと現場感はありますが、他社事例との比較や客観的な視点が得にくいです。外部に入ってもらうと、「よくある失敗パターン」「他社はどこまでやっているか」といった知見を借りられるので、遠回りを減らせます。
Q7:一度改善したら終わりですか?それとも定期的に見直すべきですか?
A7:クラウド利用や端末数・業務システムは毎年変わるので、ネットワークも“作って終わり”ではありません。最低でも年1回は、「トラフィック傾向・障害件数・構成の古さ」を確認し、次の1年に向けての改善ポイントを洗い出すことをおすすめします。
まとめ
ネットワーク改善の進め方は、「現状分析(棚卸しとログ・現場の声)→課題整理と原因切り分け→対策案と優先順位決定→小さな検証→段階的な本番展開→定着と振り返り」という流れで考えると、ブレずに進めやすくなります。
“最新機器の導入”そのものをゴールにするのではなく、「どの業務のどんなストレスを減らしたいのか」「どんな障害リスクをどこまで許容するのか」を言葉と数字にしながら、3か月・1年・3年の時間軸で改善サイクルを回していくことが、結果としてムダの少ないネットワーク投資につながります。
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