
席替え・増床・部署移動でネットワークと電話を止めないために、工事の前に決めておくべき項目を整理して解説します。
オフィスのレイアウト変更で通信が止まる原因は、機器の故障ではありません。ほとんどが「決めていなかったこと」です。
LANの口が足りない、島に電源がない、無線が届かない。当日になって発覚するトラブルは、図面を引く段階で潰せたものばかりです。
正直なところ、総務からレイアウト図を渡された瞬間に「これ、ネットワークはどうなるんだろう」と胃が痛くなっている担当者は多いはずです。誰も聞いてくれないまま日程だけ決まっている、という状況もよくあります。
この記事のポイント
- レイアウト変更で起きる通信トラブルは、席の移動そのものではなく「人と机を先に決めて、線と電波を後から考える」という順番から生まれます。机の位置が確定してから配線を検討すると、配線ルートを机の並びに合わせるしかなくなり、無理な引き回しや延長コードの束が残ります。
- 事前に決めるべきことは五つに整理できます。席数と機器数、電源と情報コンセントの位置、什器の高さと電波、工事できる時間帯、そして原状回復の条件です。この五つが図面と文書に落ちていれば、当日の判断はほとんど発生しません。
- 名古屋・愛知圏は、栄や伏見の築年数を重ねたビルから、新しい大型オフィス、郊外の工場に併設された事務所まで、建物の条件が大きく違います。同じ「席替え」でも、床の構造や既存配線の状態によって打てる手が変わるため、他社の事例をそのまま当てはめても噛み合いません。
この記事の結論
一言で言うと、レイアウト変更は「家具の話」ではなく「インフラの話」です。机と椅子は当日動かせますが、床下の配線と天井のアクセスポイントは当日には動きません。ここを同じ会議で扱うかどうかで、結果が変わります。
最も重要なのは、席数ではなく「口数」で数えることです。何人座るかではなく、LANの口がいくつ要り、電源のコンセントがいくつ要るか。実は、この数え方に切り替えるだけで、当日に足りなくなる事故のほとんどは防げます。
失敗しないためには、レイアウト図が確定する前に一度、現地を見た上で条件を出すことです。決まってから相談されると、選べる選択肢が「見えるところに配線を這わせる」しか残りません。順番を一つ前にずらすだけで、打てる手は増えます。
レイアウト変更の話は、たいてい情シスに最後に回ってくる
担当者が最初にやること、やってしまいがちなこと
多くの担当者は、まずレイアウト図を眺めて席を数えます。そして「今と同じ台数だから大丈夫だろう」と判断してしまう。ここが最初の分かれ道です。
台数が同じでも、島の形が変われば必要な口の位置は変わります。四人島が六人島になれば、島の中央に電源とLANを引き込む必要が出てきますし、壁際に並んでいた席が部屋の真ん中に移れば、壁のコンセントからは届きません。
よくあるのが、足りない分をハブと電源タップで補うという対応です。当日はそれで動きます。ただし、机の下にタップが二段三段と重なり、掃除のたびに抜ける、誰かが足で引っかけて一島が落ちる、という状態が半年後に残ります。応急処置のつもりが恒久設備になってしまうのは、この業界でよく見る流れです。
現場から出てくる声は、たいてい「机の位置」の話
社内で意見を集めると、集まるのは動線と日当たりと隣の部署との距離の話です。通信の話は出てきません。無理もない話で、席から線が出ていることを普段は誰も意識しないからです。
「窓際に移りたい」「営業と経理を離したい」といった要望は具体的に出てくるのに、「そこにLANの口はありますか」と聞かれることはまずない。結果として、通信の条件は誰にも代弁されないまま図面が固まっていきます。
このとき担当者が置かれるのは、決まった図面を見て「無理です」と言う役回りです。反対する人の立場に追い込まれると、社内での話が通りにくくなる。だからこそ、図面を引く前の段階で条件として出しておく必要があります。
「当日つながらなかったらどうしよう」という不安
土日にレイアウト変更をして、月曜の朝に電話が鳴らない、パソコンがつながらない。この光景を想像して眠れない、という声はよく聞きます。復旧を待つ間、社内の視線が全部自分に集まる感覚は、経験した人でないと分かりにくいものです。
厄介なのは、上に説明できないことです。「なぜ止まったのか」を短い言葉で説明できないと、原因が設備の制約であっても、担当者の段取り不足として処理されてしまう。何から手をつければいいか分からないまま日程だけが近づく、という状態は、心理的にかなりきついはずです。
だから事前に決めることには、二つの意味があります。トラブルを減らすことと、決めた経緯を残しておくこと。後者は、何かあったときに担当者を守ります。
止まるか止まらないかを分ける、三つの判断基準
基準1:席数ではなく「口数」で数えているか
まず数えるのは人ではなく機器です。パソコン、電話機、複合機、ネットワークカメラ、勤怠の打刻端末、決済端末。有線でつなぐものを全部書き出し、島ごとに何口必要かを出します。
ここで見落とされやすいのが、人が座らない場所の機器です。複合機、会議室のテレビ会議端末、来客用の無線アクセスポイント、倉庫の在庫端末。席数から数えると、この種の機器はまるごと落ちます。
さらに、将来分を少し足しておくこと。増員の予定がなくても、機器は増えます。ケースによりますが、現時点の必要数に一定の余裕を見ておくと、次の小さな席替えのたびに工事を呼ばずに済みます。どのくらい余裕を見るかは、事業の伸び方と予算次第です。
数える単位も揃えておきたいところです。「一席にLAN一口」で計算すると、ノートパソコンと固定電話を両方使う席で足りなくなります。逆に、電話をスマホの内線アプリに寄せている会社なら、席あたりの有線は一口で足ります。自社がどちらの前提で動いているかを、数え始める前に確認してください。
基準2:電源と情報コンセントの位置が、図面に落ちているか
レイアウト図に机は描かれていても、電源と情報コンセントの位置が描かれていないことがあります。この状態で議論すると、必ず現場で辻褄合わせが起きます。
必要なのは、既存の電源とLANの口がどこにあるかを図面に落とすこと。そのうえで、新しい島の位置と重ねます。床がフリーアクセス、つまり床下に配線を通せる二重構造になっていれば、島の直下に立ち上げる選択肢が使えます。そうでない建物では、壁からモールで這わせるか、天井から下ろすかという話になり、見た目とコストの条件が変わります。
電源については、口の数だけでなく容量も見る必要があります。一つの回路に機器を集中させると、ブレーカーが落ちる。特に複合機や電子レンジ、シュレッダーのような負荷の大きい機器がどの回路にぶら下がっているかは、事前に確認しておく価値があります。なお、電源に関わる工事は有資格者による施工が必要です。社内で判断せず、建物側の管理と工事会社に確認してください。
基準3:工事できる時間帯と、戻せる状態が決まっているか
作業できるのはいつか。ここが決まらないまま計画が進むケースは非常に多いです。ビルによっては、騒音や粉じんを伴う作業を平日日中に許可していません。共用部を通る作業に事前申請が要る建物もあります。
現実的には、休日か夜間に集中させることになります。ただし夜間作業は入館の手配、警備の解除、エレベーターの使用可否がセットで必要です。「土曜にやります」だけでは足りず、何時から何時まで、誰が立ち会い、どこまで進んだら翌週に持ち越すのか、を決めておきます。
当日の順番も決めておきます。先にネットワーク機器を立ち上げてから机を入れるのか、机を並べてから配線するのか。ここが曖昧だと、作業者どうしが同じ場所で待つことになり、限られた時間を消費します。あわせて、最低限どこまで復旧していれば翌営業日を回せるかという線も引いておくと、判断が早くなります。
もう一つ、賃貸オフィスであれば原状回復の条件です。退去時にどこまで戻す必要があるのか。床下に通した配線を撤去するのか、壁に開けた穴を塞ぐのか。実は、この条件を知らずに配線を増やし、退去時に想定外の費用が出る、という相談は少なくありません。契約書の条項と、貸主側の運用の両方を確認しておくのが安全です。
建物・地域・業者との線引きで決まること
名古屋のオフィスビルは、条件の幅が広い
名古屋・愛知圏で仕事をしていると、建物の条件が本当にばらつくと感じます。栄や伏見、名駅周辺には長く使われてきたビルが多く、床がフリーアクセスでない、既存の配管が細くて新しいケーブルが通らない、といった制約に当たることがあります。
一方で、郊外には工場や倉庫に併設された事務所が多い。天井が高く、金属の什器やラックが並び、フォークリフトが通る。この環境は無線にとって難しく、事務所の感覚でアクセスポイントを置いても届きません。多拠点で同じ機器を横展開しようとして、拠点ごとに結果が違う、というのもよくある話です。
本社が名古屋市内、拠点が県内や近隣県に散っている会社も珍しくありません。この形だと、本社のレイアウト変更に合わせて拠点側の内線や回線の設定も触ることになり、影響範囲が一つの建物で完結しなくなります。誰がどの拠点に連絡するか、当日つながらなかったときに誰へ一次連絡を入れるかまで決めておくと、混乱が小さくなります。
つまり、他社のやり方をそのまま持ってきても再現しません。建物ごとに条件を見るしかない。逆に言えば、一度きちんと見ておけば、次の席替えは同じ図面の更新で回せるようになります。
什器の高さと素材が、電波を止める
無線が届かない原因の多くは、機器の性能ではなく遮蔽物です。特に効くのが、高いパーティション、スチール製のキャビネット、ガラスの会議室、そして人です。
パーティションを高くすると集中しやすくなりますが、電波は通りにくくなります。背の高いスチール棚を島の間に並べれば、その裏側は弱くなる。レイアウト変更で什器を新調するときは、高さと素材を決める段階で無線の話を一度挟んでおくと、後から追加のアクセスポイントを買う事態を減らせます。
会議室も要注意です。人が集まる部屋ほど同時接続が増え、扉を閉めると電波が弱まる。テレビ会議を常用するなら、会議室は有線の口を一つ残しておくのが無難です。無線だけで組むと、肝心なときに映像が乱れます。
どこまで自社でやり、どこから外部に頼むか
線引きの目安はシンプルです。抜き差しと設定変更は自社、新しく線を通す作業と電源に関わる作業は外部、と考えると整理しやすくなります。
自社でやれるのは、パソコンや電話機の移設、ハブへの差し替え、無線の設定確認、機器の固定IPの整理といった範囲です。複合機のIPアドレスが変わって印刷できなくなる、という定番のトラブルは、事前に固定IPの一覧を作っておけば当日の作業で吸収できます。電話の内線番号も同じで、誰がどの席でどの内線を使うかの対応表を先に作れば、当日は差し替えるだけになります。
外部に頼むべきなのは、配線の新設・撤去、情報コンセントの増設、電源工事、主装置やアクセスポイントの設置位置の設計です。電気通信設備の工事や電源工事には資格の要件があり、建物側の申請も絡みます。ここを自社の判断で進めると、後で是正費用が出ることがあります。判断に迷うものは、着工前に工事会社へ写真と図面を送って確認するのが早いです。
こういうオフィスは今すぐ現地調査を入れるべき
- レイアウト図がすでに確定していて、電源と情報コンセントの位置が書かれていない。この状態は、当日に足りないものが出る前提で動いているのと同じです。
- 島の中央に座る席がある。壁から遠い席が増えるレイアウトは、電源とLANの引き込みを先に設計しないと成立しません。
- 現状すでに、机の下に電源タップとハブが積み重なっている。増設で場当たりに対応してきた証拠で、席替えを機に一度整理しないと、同じ形がそのまま新しい島に再現されます。
- 高いパーティションやスチール棚を新しく入れる予定がある。什器の発注前に無線の条件を確認しておく価値があります。
- 建物の工事可能時間が確認できていない、または休日夜間の入館手配が誰の担当か決まっていない。日程の前提が崩れる可能性があります。
- 賃貸で、原状回復の条件を読んでいない。追加した配線をどこまで戻すのかを知らずに増やすと、退去時に費用が膨らむことがあります。
該当が一つでもあるなら、レイアウト図が固まる前に現地を見てもらうのが結局は近道です。決まってから相談すると、選べる方法が減り、費用も日程も窮屈になります。
よくある質問
Q1. 席を移動するだけなら、工事は不要ではありませんか。
必要になることが多いです。既存の情報コンセントの位置に机が来るとは限らず、口の数も足りなくなります。既存設備の位置と新レイアウトを重ねてみて、届かない席が一つでもあれば工事の検討対象です。
Q2. LANの口が足りないとき、ハブを置くのは駄目ですか。
一時的には有効ですが、恒久策にはしない方が無難です。机の下のハブは電源が抜けやすく、障害時にどこが原因か分かりにくくなります。台数が多い島は、情報コンセントの増設を検討してください。
Q3. 無線だけにして、有線をやめることはできますか。
用途によります。ノートパソコン中心の業務なら現実的ですが、複合機、固定電話、テレビ会議端末、決済端末などは有線が安定します。ケースによりますが、全席無線・重要機器のみ有線、という組み方が扱いやすいです。
Q4. 工事は休日にしか頼めませんか。
建物の規則によります。騒音や共用部の使用を伴う作業は平日日中に制限がある建物が多く、結果として休日夜間になりがちです。まず管理会社に作業可能時間と申請の要否を確認してください。
Q5. 電話の内線番号は、席替えの後もそのまま使えますか。
設定変更で対応できることが多いですが、自動ではありません。誰がどの席でどの内線を使うかの対応表を事前に作り、当日または前日に設定を反映させます。表がないと、当日に電話が鳴らない席が出ます。
Q6. 複合機が印刷できなくなるのはなぜですか。
IPアドレスが変わったのに、パソコン側の設定が古いままだからです。多くは、複合機に固定IPを割り当て、事前に一覧を作っておくことで防げます。移設後に印刷テストまで済ませておくと確実です。
Q7. 費用はどのくらい見ておけばよいですか。
規模と建物の構造で大きく変わるため、一律の目安は出せません。床下に配線を通せるか、既存の配管が使えるか、作業が休日夜間かで差が出ます。図面と現地の写真を渡して、数社に同じ条件で見積もりを取るのが確実です。
まとめ
オフィスのレイアウト変更で通信が止まるのは、設備が弱いからではありません。机の配置を決める会議と、線と電波を決める会議が、別々に進んでいるからです。
決めておくことは五つ。席数ではなく機器の口数、電源と情報コンセントの位置、什器の高さと素材、工事できる時間帯と入館の段取り、そして原状回復の条件。これを図面と文書に落としておけば、当日に判断を迫られる場面はほとんどなくなります。
実は、この準備はそのまま次回の資産になります。口の位置と内線の対応表、固定IPの一覧が残っていれば、次の席替えは更新作業で済みます。毎回ゼロから調べ直している状態から抜け出せると、担当者の負荷はかなり下がります。
そして、順番を一つ前にずらすこと。図面が固まる前に、通信の条件を出しておく。それだけで、当日の朝に電話が鳴るかどうかが変わります。次のレイアウト変更に向けて、まず何から手をつけますか。
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