
電話の取次ぎで一日の手が止まっている会社に向けて、自動応答(IVR)で用件を振り分け、担当者まで最短でつなぐ設計の考え方を解説します。
電話の取次ぎは、根性ではなく仕組みで減らせます。
IVR(自動音声応答)は「〇〇のご用件の方は1番を押してください」と機械音声で案内し、押された番号ごとに着信先を分ける仕組みです。装置やサービスの導入そのものは、それほど難しくありません。
正直なところ、多くの会社がつまずくのは機器選びではなく、その中身です。何番に何を割り当てるか。誰に相談すればいいのか分からないまま、業者から渡された設定シートの空欄を前に固まってしまう。そんな相談が多いのが実態です。
この記事のポイント
- IVRの効果は「一次受けをゼロにすること」ではなく「一次受けの回数を減らすこと」にあります。すべてを機械に任せようとすると、かえって社内の負担が増えます。自動で振り分けられる電話と、人が出たほうが早い電話を仕分けるところが出発点です。
- 失敗する原因は、ほぼ設計に集約されます。階層が深い、選択肢が多い、案内文が長い。この三つが揃うと、かけてきた相手は途中で切ります。逆に言えば、浅く・少なく・短くを守るだけで、大きくは外しません。
- 名古屋・愛知圏は、本社と工場、営業所が離れた場所に置かれている会社が少なくありません。電話を受ける人と、その用件を処理できる人が別の建物にいる。この距離が取次ぎのコストを見えにくくしており、だからこそIVRの効き方も大きくなります。
この記事の結論
一言で言うと、IVRは「電話を減らす道具」ではありません。「電話を正しい席に届ける道具」です。かかってくる本数そのものが減るわけではない。届く先が変わることで、保留時間と社内の手戻りが減ります。ここを取り違えると、導入後に「思ったより楽にならない」という感想だけが残ります。
最も重要なのは、選択肢を用件の多い順に並べることです。社内の組織図の順でも、部署の格でもありません。実際に多くかかってくる用件を1番に置く。それだけで、大半の相手は最初の選択肢で目的地に着きます。並び順は設計の中で最も安く、最も効く要素です。
失敗しないためには、時間外の案内と、受けられなかったときの折り返し導線をセットで作ることです。IVRは営業時間内の振り分けだけを考えて設計されがちですが、実際に相手を怒らせるのは「誰も出ない」「かけ直し先が分からない」場面のほう。ケースによりますが、留守番電話とフォームへの誘導まで含めて初めて設計が完成します。
「また電話だ」と思ってしまう自分に、少し落ち込む
一日が細切れになって、本来の仕事が終わらない
兼任の総務担当や、ひとり情シスの方から特に多いのが、この悩みです。書類を作り始めた三分後に電話が鳴る。用件を聞き、担当者を探し、席にいないので折り返しをメモする。戻ってきたときには、さっきまで何を考えていたのか思い出せない。作業そのものは一件三分でも、集中が切れる代償はもっと大きい。実は、取次ぎの負担は「合計時間」より「回数」で効いてきます。一日二十回の中断は、二十回分の再起動を意味します。しかもこの負担は勤怠にも日報にも残りません。数字に出ないから改善の議題にも上がらず、担当者だけが疲れていく。上司に相談しても「電話くらい」で流されてしまい、言い出しづらくなる。この構造が、問題を長く放置させます。まずは一週間、取次ぎの件数と用件だけをメモしてみてください。感覚を数に変えると、話が通りやすくなります。
現場から出るのは「たらい回しにされた」という声
社内の感覚と、かけてきた側の感覚はずれます。受ける側は「担当につないだだけ」と思っていても、相手からすれば、最初の人に用件を説明し、保留で待たされ、次の人にもう一度同じ説明をしている。よくあるのが、二人目でも担当が違い、三人目でようやく話が通じるパターンです。この体験は取引先にも消費者にも強く残ります。電話の印象は、応対の丁寧さより「何回説明させられたか」で決まる面があります。厄介なのは、この不満が社内にほとんど届かないこと。相手はわざわざ苦情を言わず、次から別の会社に問い合わせるだけです。取次ぎの回数は、静かに機会を減らしています。
「機械が出ると冷たいと思われないか」という警戒心
導入をためらう理由として、いちばん多く挙がるのがこれです。特に地元の付き合いが長い取引先を持つ会社ほど、「人が出ないと失礼ではないか」と気にされます。この心配自体は、まっとうな感覚です。ただし実際に嫌われているのは自動音声そのものではなく、長い前口上と、聞き終わらないと選べない構成のほう。案内が短く、二つ目の選択肢までで目的の相手に届くなら、相手は機械が出たことをほとんど気にしません。上司に説明するときも、「機械に任せる」ではなく「冷たくしない設計にする」という言い方をすると、話が前に進みます。心配が残るなら、主要な取引先だけ担当者の直通番号を先に案内しておく、という折衷案もあります。全部を一度に切り替える必要はありません。
IVRの中身を決める三つの判断基準
基準1:階層は浅く。原則は一階層、深くても二階層まで
最初の分岐で担当部門まで届くのが理想です。どうしても分けきれない場合だけ、二階層目を足す。三階層は原則作らない、と決めてしまったほうが結果的にうまくいきます。理由は単純で、人は音声で提示された選択肢を覚えていられないからです。二階層目に進んだ時点で、相手は最初に何を選んだかを半分忘れています。深い階層は、社内の組織構造を相手に代行させている状態だと考えてください。分けたい気持ちは分かりますが、細かく分けるほど誤選択が増え、結局は転送し直す手間が戻ってきます。目安として、案内を聞き始めてから目的の相手が鳴るまで、二十秒前後に収まっているかを確認してください。ここを超えると、待てない相手から順に切れていきます。
基準2:選択肢は少なく。一階層あたり三つか四つまで
音声で聞いて選べる数には限りがあります。五つ、六つと並べた瞬間に、相手は「とりあえず最初の番号」を押すか、何も押さずに待ちます。何も押さない相手が一定数いる前提で設計するのが実務的です。押されなかったときは代表番号のオペレーターに落ちる、という受け皿を必ず用意します。また、「その他のご用件は9番」のような逃げ道を一つ置いておくと、想定外の用件で相手が詰まりません。選択肢を削るコツは、社内の担当割りをそのまま持ち込まないことです。「技術一課」ではなく「修理・故障のご相談」。相手が電話口で名乗る言葉に寄せて束ねると、自然と数は減ります。案内文も同じで、社名や挨拶を長々と読み上げてから選択肢に入る構成は避けます。名乗りは短く、すぐ番号の案内へ。押す前に用件を思い出させる必要はありません。
基準3:並び順は用件の多い順。組織図の順に並べない
ここが最も効きます。設計の場では、どうしても部署の序列や組織図の順に並べたくなります。しかし電話をかけてくる側は、社内の序列を知りません。過去の着信記録や、取次ぎメモを一か月分ざっと見返して、多い用件から順に1番、2番と置く。受注や修理依頼が多い会社なら、それが1番です。採用や請求書の問い合わせは後ろで構いません。ケースによりますが、上位二つの選択肢で全体の大半をさばけている状態が、うまく設計できているサインになります。並び順の見直しは費用がほとんどかからないので、導入から数か月後に一度必ず点検してください。季節で用件が動く業種なら、繁忙期の前に入れ替えるだけでも体感が変わります。ここは業者に任せる部分ではなく、社内で判断すべき部分です。
名古屋のオフィス事情と、どこまでを自社でやるか
多拠点では「どの建物で鳴らすか」が論点になる
名古屋市内に事務所、周辺の市に工場や倉庫、という構成の会社は珍しくありません。この形だと、代表番号は本社で鳴るのに、実際に答えられるのは工場にいる人、という状態が日常的に起きます。IVRを入れる価値が最も大きいのは、まさにこの構成です。用件で分ければ、現場の用件は最初から現場で鳴らせます。ただし拠点をまたいで着信を飛ばすには、回線とネットワークの設計が伴います。番号をどこで受けて、どの経路でどの拠点に落とすのか。図に描いて確認しておくと、後の工事や設定変更が楽になります。さらに、工場や倉庫は事務所と勤務時間が違うことも多い。時間帯によって鳴らす拠点を変えられるかどうかは、方式を選ぶ段階で確認しておきたい点です。
音声はネットワークの品質にそのまま影響される
古いビルに入居している事務所では、配線が増改築のたびに継ぎ足されていることがあります。IP電話やクラウド型のサービスで音声をネットワークに載せる場合、この配線の状態や機器の設定が、そのまま通話品質に出ます。音が途切れる、片方向だけ聞こえないといった症状は、電話機側ではなく経路側に原因があることが多い。断定はできませんが、切り分けのためには、音声を優先的に扱う設定や、帯域に余裕があるかの確認が要ります。工事や設定を伴う部分には有資格者による施工が必要な範囲もあるため、自己判断で触らず、事前に業者と範囲を握っておくのが安全です。よくあるのが、IVRの設定は問題ないのに「音が悪い」という苦情だけが上がってくるケース。原因が分岐の設計ではなく経路側にあると、設定をいくらいじっても直りません。導入前に、実際に使う席から通話品質を確かめておくと、後の切り分けがぐっと楽になります。
どこまで自社でやり、どこから外部に頼むか
線引きの目安はシンプルです。「何を何番に置くか」「案内文の言い回し」「時間外の扱い」は自社で決めます。ここは業務そのものなので、外部が決められません。一方、装置やサービスの選定、回線と番号の手配、拠点間の経路設計、実際の工事や設定投入は外部に任せる領域です。よくあるのが、この線引きが曖昧なまま話が進み、業者は「決めてもらえない」、社内は「提案がない」とすれ違う状態。最初の打ち合わせで、決定事項の担当を紙に分けて書いておくだけで、進みが変わります。案内文の原稿は自社で書き、読み上げの収録や設定投入は任せる、という分担が現実的です。あわせて、稼働後に案内文や並び順を変えたいとき、誰がどの手順で直せるのかも先に決めておいてください。毎回手配が必要な方式か、社内の管理画面から変えられる方式かで、運用の重さがかなり違ってきます。
こういう会社は今すぐIVRの設計を見直すべき
- 代表電話に出る人が固定されており、その人が休むと社内が回らなくなっている
- 取次ぎのメモが一日に十枚以上たまり、折り返しの遅れがそのままクレームになっている
- 営業電話の一次対応に時間を取られ、本来の顧客からの電話を待たせている
- 本社で受けた電話の大半を、別拠点の担当者に転送し直している
- すでにIVRを入れているが、選択肢が五つ以上あり、途中で切られている実感がある
- 時間外にかかってきた電話の記録が残っておらず、翌朝の折り返しができていない
一つでも当てはまるなら、装置を替える前に、まず紙の上で分岐図を書き直すことをおすすめします。設計の見直しは費用が小さく、効果が出るまでの時間も短い。順序を逆にすると、新しい機器で同じ渋滞を再現するだけになります。
よくある質問
Q1. IVRを入れると、電話の本数そのものは減りますか。
本数は減りません。減るのは「誰かが一度受けてから転送する」という中間工程です。結果として保留時間と社内の移動が減り、体感の負担は下がります。本数を減らしたい場合は、よくある質問をウェブに整理するなど、別の手を併用します。
Q2. 「1番を押してください」と言っても、押さない人がいます。
一定数は必ずいます。固定電話の機種や、通話中の操作に慣れていない相手もいるためです。無操作のまま数秒経ったらオペレーターに落ちる、という受け皿を必ず設定してください。無操作を「失敗」ではなく想定内として扱うのが設計の基本です。
Q3. 営業電話はフィルタできますか。
完全には無理ですが、確実に減らせます。用件で分岐させると、営業目的の相手は該当する選択肢を選びづらく、途中で切ることが多いためです。「営業のご連絡はメールでお願いします」と案内に一文入れる方法もあります。効果の度合いはケースによります。
Q4. 時間外はどう案内するのがよいですか。
営業時間を先に告げ、次に取れる手段を示すのが基本です。「本日の受付は終了しました。翌営業日にご連絡します。お急ぎの方は発信音の後にお名前とご用件をお話しください」といった形。時間だけ告げて切れる案内は、相手に何も残しません。
Q5. 留守番電話は本当に使われますか。
運用次第です。録音を誰がいつ確認するかを決めていないと、吹き込まれても放置され、かえって印象を悪くします。朝一番と昼、終業前に確認する担当を決めておく。実は、この確認の仕組みのほうが、装置の性能より結果を左右します。
Q6. 導入にどれくらいの費用と期間がかかりますか。
規模と方式によって幅が大きく、一概には言えません。既存の主装置の機能を使う場合と、クラウド型のサービスを新たに契約する場合では、費用の構造自体が変わります。回線や番号の手配が絡むと期間も伸びます。複数の方式で見積もりを取り、初期費用と月額の両方で比較してください。
Q7. 通話内容を録音する場合、注意点はありますか。
録音している旨を案内で伝えること、保存期間と保存先、閲覧できる人を決めておくことが基本です。個人情報の取り扱いに関わるため、自社の規程と最新の法令、所管省庁の公式情報を必ず確認してください。制度は変わる前提で運用を組んでおくと安全です。
まとめ
IVRは、電話を減らす道具ではなく、届け先を変える道具です。取次ぎが重い会社ほど効きますが、効かせるかどうかは中身の設計で決まります。装置やサービスの比較に時間をかける前に、まず分岐図を一枚書いてみてください。
守るべき原則は三つだけです。階層は浅く、選択肢は少なく、並び順は用件の多い順。この三つを外さなければ、細かい部分は運用しながら直せます。逆に、この三つを外した設計は、後からどれだけ調整しても相手の離脱が止まりません。
そして、営業時間内の振り分けと同じ重さで、時間外と折り返しの導線を決めておくこと。名古屋圏のように本社と現場が離れている構成では、どの拠点で鳴らすかまで含めて考えると、効果がはっきり出ます。ネットワークや工事が関わる部分は、範囲を業者と握ってから進めるのが安全です。
正直なところ、この設計は誰かが決めないと永遠に進みません。決めるのは業者ではなく、社内で電話の実態を知っている人です。過去一か月の取次ぎメモを見返すところからでも構いません。まず、どの用件を1番に置きますか。
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