
複数の会社から届いた提案を同じ土俵で比べられるようにするための、依頼書の書き方を解説します。
提案が比べられないのは、提案側の問題ではありません。渡した条件が会社ごとに違うからです。
同じ工事、同じ入替でも、伝えた情報が違えば前提が変わり、金額も範囲も別物になります。三社から届いた見積が三通りの形をしていて、どこを見比べればいいのか分からない。この状態は、依頼の時点でほぼ決まっています。
正直なところ、依頼書という言葉を聞いた時点で身構える担当者は多いはずです。書式も分からず、専門用語で条件を並べる自信もない。ただ、必要なのは立派な文書ではなく、全社に同じ内容を渡すことだけです。
この記事のポイント
- 提案依頼書、いわゆるRFPは、発注側が「今こうで、こうしたい」を書き出して各社に同じものを渡す紙のことです。専門的な仕様書を作る必要はありません。現状と要望と条件が揃っていれば、A4で二枚から三枚でも十分に機能します。むしろ厚さより、全社に同じものを渡したかどうかが効きます。
- 書くべき中身は六つに整理できます。現状、やりたいこと、譲れない条件と優先順位、予算感とスケジュール、対象範囲、評価の観点。この六つが埋まっていれば、返ってくる提案は自然と同じ形に近づき、比較の作業が一気に軽くなります。逆に、どれかひとつでも空白だと、その部分は各社の想像で埋められます。
- 名古屋・愛知では、本社と工場と営業所を分けて持つ会社や、築年数の経ったビルにテナントとして入っている会社が多くなります。図面が残っていない、増築を重ねて配線経路が分からない、天井裏の状況が誰にも分からない。こうした条件は正直に書いてしまったほうが、あとで揉めずに済みます。
この記事の結論
一言で言うと、全社に同じ紙を渡してください。口頭で説明する内容が会社ごとに少しずつ違うだけで、提案は比較不能になります。書いて渡す。それだけで、届く提案の質と揃い方が変わります。
最も重要なのは、要望ではなく「譲れない条件」と優先順位を書くことです。あれもこれも欲しいと並べれば、各社は勝手に取捨選択します。絶対に外せない条件を三つほど明示し、残りは「できれば」と正直に書くほうが、提案は現実に近づきます。
失敗しないためには、分からないことを分からないと書く勇気を持ってください。ケースによりますが、既存の構成や配線経路が把握できていない会社は珍しくありません。隠しても現地で必ず露見し、追加費用として跳ね返ります。最初から書いておけば、調査から始める提案が返ってきます。
見積を並べてみたが、どれが妥当なのか判断できない
三社に頼んだのに、比較表が作れない
よくあるのが、相見積を取ったところまでは進んだのに、そこから止まってしまう状態です。
A社は機器の型番と台数が細かく並び、B社は「無線環境構築一式」の一行で終わっている。C社は保守費用まで含んだ年額で書かれている。金額の桁も範囲もバラバラで、単純に安い順に並べることすらできません。
原因は、渡した情報にあります。電話で伝えた会社、メールで箇条書きを送った会社、担当者が現地に来たときに口頭で話した会社。同じ話をしたつもりでも、内容は必ずずれています。提案の形が揃わないのは当然の結果です。
しかも、ずれは金額だけに出るわけではありません。A社は既存機器の撤去を含み、B社は含まない。C社は初年度の保守を無償としているが、二年目以降の費用が書かれていない。この状態で安い順に並べれば、いちばん範囲の狭い提案が最安値になります。比較して選んだつもりが、実際には条件の違う三つの案から適当に一つを引いただけ、ということになりかねません。
現場から出るのは「専門的なことは分からないので任せたい」という声
依頼の場面でいちばん多く聞かれるのが、この一言です。
気持ちは分かります。機器の種類も規格も次々に変わり、担当者が独学で追いつける範囲を超えている。だから専門家に任せたい。ここまでは自然な流れです。
ただ、任せるという言葉には二つの意味が混ざっています。「技術の選定を任せる」のは正しく、「何をしたいかの決定まで任せる」のは危険です。後者を渡してしまうと、提案は各社の得意分野に引き寄せられ、結果として比較できない三つの案が並びます。技術は任せる。目的と条件は自社で決める。この線引きが要です。
「相場が分からないから、金額を書けない」という壁
担当者からよく出るのが、予算を書くと足元を見られるのではないか、という不安です。
実は、これは逆に働くことのほうが多くなります。予算感が示されていないと、各社は無難な構成、あるいは最大構成で見積を出します。届いた金額が想定の倍で、そこから削る交渉を一から始める。時間も労力も余計にかかります。
書き方は幅で構いません。「百万円台の前半で考えている」「初期費用は抑え、月額に寄せたい」「今期は必要最小限、来期に拡張したい」。この程度の情報があるだけで、各社は現実的な構成を提示できます。予算を出すのは、値切られる材料ではなく、無駄な提案を減らすための情報です。
依頼書に書くべき情報を三つの基準で整理する
基準1:現状を、事実のまま書けているか
まず必要なのが、今どうなっているかです。ここが最も抜けやすく、最も効きます。
書く項目は決まっています。従業員数と、実際に同時にネットワークを使う人数。拠点の数と所在地、それぞれの広さと階数。使っている回線の種類と契約先。ルーターやスイッチ、無線アクセスポイント、電話の主装置といった機器の設置年数と、分かる範囲での型番。建物の構造と、賃貸か自社所有か。
そして最後に、いま困っていることを具体的に書きます。「夕方になると会議室で無線が切れる」「二階の奥だけ電波が届かない」「電話の増設を断られた」。この記述が、提案の的を絞ります。困りごとが「遅い」の一言だけだと、各社は原因を推測するしかなく、提案は総花的になります。
分からない項目は、分からないと書いてください。前任者しか知らない、資料が残っていない、天井裏を見たことがない。これも立派な情報です。むしろ空白のまま渡すより、「不明」と書いてあるほうが、各社は調査の工数を最初から見積に入れられます。あとから追加費用として出てくるより、はるかに健全です。
現状の記述は、一度作れば次の案件でも使えます。機器一覧と回線契約の一覧を表にしておくだけで、更新時期の把握にも、障害が起きたときの切り分けにも役立ちます。依頼書のためだけの作業と思わずに、社内の台帳を整える機会として取り組むと、手間が無駄になりません。
基準2:やりたいことと、譲れない条件が分かれているか
次に、これからどうしたいかを書きます。ここで大事なのは、要望と条件を混ぜないことです。
やりたいことは、業務の言葉で書くのが有効です。「新しく借りたフロアで、四十人が同時に業務システムを使えるようにしたい」「工場の二階と事務所を有線でつなぎたい」「来客用の無線を社内網と分けたい」。機器名で書く必要はありません。目的が伝われば、手段は各社が提案します。
そのうえで、譲れない条件を分けて書きます。使える期日、工事できる時間帯、止められない業務、既存機器の流用の可否、社内規程で決まっているセキュリティ要件、費用の上限。ここに優先順位をつけてください。「日程は絶対、予算は多少超えても可」なのか「予算が絶対、稼働は一か月遅れても可」なのか。この一行で提案は変わります。
条件を全部「必須」にしてしまうと、各社は最も安全で最も高い構成を出します。優先順位をつけるほど、選択肢は増えます。
基準3:対象範囲と評価の観点を先に決めているか
三つ目が、どこからどこまでを頼むのかという範囲です。
通信や電気の案件では、少なくとも四つの工程が関わります。現地調査と設計、機器の調達、配線や設置の工事、そして稼働後の保守。この四つのどこまでを依頼するかで、金額はまったく別のものになります。機器は自社で用意するのか、設計だけ先に頼むのか、保守は含むのか。ここが曖昧なまま比較すると、範囲の違いを価格差と誤解します。
あわせて書いておきたいのが、既存設備の扱いです。撤去と廃棄は含むのか、原状回復の義務があるのか、図面の作成と提出は求めるのか、竣工後の試験結果は書面で欲しいのか。細かく見えますが、この有無で数十万円動くこともあります。
そして、評価の観点を先に決めて明示します。価格、実績、対応の速さ、保守体制、提案内容の具体性、担当者の説明の分かりやすさ。何を重視するかを伝えておけば、各社はそこを厚く書いてきます。社内で決裁を通すときにも、この観点表がそのまま説明資料になります。
観点は、できれば重みまで決めておきます。価格を最重視するのか、稼働後の対応を重視するのか。ここが決まっていないと、提案が出そろったあとに社内で意見が割れ、決まらないまま時間だけが過ぎます。上に説明できないという悩みの多くは、実は判断基準を先に決めていないことから生まれています。
現地の条件と、自社でやる範囲・外部に任せる範囲
名古屋・愛知の建物事情を、依頼書に反映する
名古屋の市街地では、築年数の経ったオフィスビルにテナントとして入っている会社が少なくありません。この場合、自社の判断だけで決められない部分が必ず残ります。共用部の配管が使えるか、他階をまたぐ配線が許されるか、工事の時間帯に制限があるか。管理会社への確認が要るなら、その旨も依頼書に書いておきます。
郊外の工場や倉庫は、また事情が違います。建屋が分かれ、天井が高く、金属の什器や設備が電波を遮る。増築を重ねていて、当時の図面が残っていないことも多くあります。愛知圏では製造業の拠点を持つ会社が多いぶん、こうした条件に慣れた業者かどうかが提案の質に直結します。
多拠点であることも、最初に書いてください。本社と工場と営業所で条件が違うなら、拠点ごとに一枚ずつ現状を書き分けます。まとめて「三拠点」と書くだけでは、各社は同じ構成を三倍しただけの見積を出してきます。
図面がない、現地を見せられない場合はどうするか
図面が残っていないケースは、正直なところかなりの割合であります。この場合、依頼書に「図面なし」と明記したうえで、現地調査を前提にした提案を求めるのが現実的です。
現地調査を各社に受け入れるかどうかも、先に決めておきます。全社に見てもらえば精度は上がりますが、そのぶん日程調整の手間がかかり、現場にも負担が出ます。ケースによりますが、書面で二社から三社に絞り、そのうえで現地調査に進む二段構えが扱いやすい方法です。調査が有償か無償かも、事前に確認しておくと後の行き違いを防げます。
写真で補うのも有効です。分電盤、既存のラック、天井の点検口、機器の設置場所、ケーブルの引き込み口。数枚あるだけで、机上の想像がかなり減ります。
どこまで自社でやり、どこから外部に頼むか
自社でやるべきなのは、現状の棚卸しと、条件と優先順位の決定です。誰が何に困っているか、いつまでに何を実現したいか、何が譲れないか。これは社内の人間にしか書けません。ここを外部に丸投げすると、提案は業者ごとの都合で組み立てられます。
外部に任せるべきなのは、その条件を満たす技術的な構成の設計と、実際の施工です。電波環境の調査、機器の選定、配線経路の設計、そして工事。電気や電気通信の設備工事には、有資格者による施工が必要な範囲があります。安全にも法令にも関わるため、社内で済ませようとしないでください。関連する法令や制度は変わる前提で、最新の要件は所管省庁や公式情報で確認するのが確実です。
線引きの目安はこうです。「何を、いつまでに、いくらで、どこまで」を決めるまでが自社。「どうやって実現するか」からが外部。この順で渡せば、返ってくる提案は比較できる形になります。
こういう会社は今すぐ提案依頼書を作るべき
- 相見積を取ったが、金額の桁も範囲もバラバラで比較表が作れない
- 各社への説明を口頭やメールで個別に行い、同じ資料を渡していない
- 予算感を伝えておらず、届いた見積が想定の倍だった
- 現状の機器や回線の情報を、社内の誰も一覧にしたことがない
- 設計・工事・保守のどこまでを頼むのかが、社内で決まっていない
- 図面が残っていないことを業者に伝えないまま、見積だけ依頼している
ひとつでも当てはまるなら、A4で二枚の紙を作るところから始めてください。現状、やりたいこと、譲れない条件、予算感、範囲、評価の観点。この六項目を埋めて全社に同じものを渡すだけで、比較の作業は驚くほど楽になります。
よくある質問
Q1. 立派な仕様書を作る自信がありません。簡単なもので構いませんか。
構いません。むしろ簡素なほうが実務的です。必要なのは形式ではなく、全社に同じ情報が渡っていることです。現状と要望と条件が書かれたA4二枚でも、口頭説明だけの依頼より確実に良い提案が返ってきます。
Q2. 予算を書くと、その金額いっぱいの見積が来ませんか。
その懸念はありますが、書かない場合の弊害のほうが大きくなります。予算がないと各社は最大構成か無難な構成を出し、比較も交渉も一からになります。幅で示し、優先順位を添えれば、削るべき箇所を各社が提案してくれます。
Q3. 何社に声をかけるのが適当ですか。
一般に三社前後が扱いやすい数です。多すぎると比較と日程調整の負担が急に増え、少なすぎると相場感が持てません。まず書面で三社に依頼し、そこから現地調査に進む会社を絞る形が現実的です。
Q4. 図面がまったく残っていません。依頼できますか。
依頼できます。図面がないこと自体は珍しくありません。その事実を明記し、現地調査を前提にした提案を求めてください。隠したまま進めると、着工後に想定外の経路が見つかり、追加費用として跳ね返ります。
Q5. 現地調査は全社に来てもらうべきですか。
必ずしも必要ありません。全社が来れば精度は上がりますが、現場の負担も増えます。書面で候補を絞ってから調査に進む二段階が扱いやすい方法です。調査費用の有無は、事前に確認しておいてください。
Q6. 評価の観点は、業者に伝えてよいのでしょうか。
伝えたほうが良い結果になります。重視する点が分かれば、各社はそこを具体的に書いてきます。隠しても提案の質が上がることはありません。あわせて社内の決裁でも、この観点がそのまま説明の骨格になります。
Q7. 稼働後の保守も、最初の依頼に含めるべきですか。
含めることをおすすめします。あとから別に契約すると、責任の所在が曖昧になりやすいためです。受付時間、駆けつけの有無、対象範囲を依頼書に書いておけば、工事費と運用費を合わせた総額で比較できます。
まとめ
提案が比較できないのは、渡した情報が揃っていないからです。書式の立派さは関係ありません。全社に同じ紙を渡す。この一点で、届く提案の形は揃います。
書く中身は六つ。現状、やりたいこと、譲れない条件と優先順位、予算感とスケジュール、対象範囲、評価の観点。分からないところは分からないと書いてください。隠した情報は、必ず現地で見つかります。
自社で決めるのは、何を、いつまでに、いくらで、どこまで。技術的にどう実現するかは、外部に任せる領域です。この線引きができていれば、専門知識がなくても発注はできます。
名古屋・愛知のように、市街地の古いビルと郊外の工場を同時に抱える会社では、拠点ごとに条件が変わります。まとめて書かず、拠点ごとに現状を書き分けてください。まずは手元の紙一枚に、いま困っていることを三つ書き出すところから始めてみませんか。
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