
出社と在宅が入り混じる働き方で、社内ネットワークのどこに負荷が移るのかと、その備え方を解説します。
「出社する人が減ったのだから、社内ネットワークは前より楽になっているはずだ」。この前提は、ほとんどの会社で外れます。
人数が減っても、通信量は単純に減りません。使うサービスが変わり、集中する場所が変わり、日によって人数そのものが上下するからです。負荷は減ったのではなく、移動しました。
正直なところ、「在宅勤務を増やしたのに、なぜ社内のWi-Fiが以前より不安定なのか」をうまく説明できず、困っている担当者は少なくありません。原因が分からないまま、出社した社員から会議のたびに苦情を受ける。心当たりがあるなら、この記事が整理の助けになります。
この記事のポイント
- ハイブリッドワークで最初に効いてくるのは、人数の「平均」ではなく「振れ幅」です。週の前半は二割、会議や研修が重なる日は八割といった具合に出社率が動く環境では、平均出社率を基準に組んだ設計は必ずどこかで破綻します。設計の基準はピークの日、それも一日の中で一番混む時間帯に置く必要があります。
- 通信の中身も変わります。全員が社内にいた頃はファイルサーバーや複合機など社内向けの通信が中心でしたが、いまは社内にいてもクラウドとWeb会議が主役です。加えて在宅側からVPNで社内へ入る通信が乗るため、社内と社外の境目にある機器や回線の出口に負荷が集まります。人が減っても出口が細ければ、体感は悪くなります。
- 名古屋・愛知では、駅周辺の築年数が経ったオフィスビルに本社を構え、郊外の工場や倉庫、県内外の営業所を同じ仕組みでつないでいる会社が目立ちます。こうした建物では配線ルートや電源の位置に制約があり、フリーアドレス化に合わせて無線アクセスポイントを増やそうとしても、思った場所に置けないことがあります。働き方の変更と建物の制約は、必ずセットで考えたい部分です。
この記事の結論
一言で言うと、ハイブリッドワークで見直すべきなのは回線の太さそのものではなく、「どこに人と通信が集中するか」という分布です。総量が同じでも、集まる場所が変われば詰まる場所も変わります。
最も重要なのは、ピークで設計するという原則です。出社率が日ごとに変わる以上、平均で足りる設計は半分の日で足りません。全社会議の日や月末、研修日といった一番混む条件を先に決め、そこを基準にしてください。
失敗しないためには、社内と在宅の境界線を先に引いておくことです。会社の機器をどこまで持ち出させるか、在宅側の回線や無線環境にどこまで会社が関与するか。ここが曖昧なままだと、トラブルのたびに担当者へ相談が集まり、対応が終わりません。
人は減ったのに社内が重い。この矛盾を説明できない
出社率の平均値だけを見て安心してしまう
よくあるのが、「出社率は平均四割程度だから、設備は今のままで大丈夫」と判断してしまうパターンです。数字としては間違っていません。けれど、この平均には意味がありません。
現実には、月曜と金曜は少なく火曜と水曜に集中する、あるいは部署の定例がある日だけ人が戻る、といった偏りが出ます。困るのは平均の日ではなく、偏った日です。平均で足りていても、混む日に足りなければ苦情は毎週発生します。
さらに厄介なのが、出社した人ほど会議に出ているという点です。在宅の同僚とつなぐため、社内にいる人もWeb会議を使います。人数が減っても、一人あたりが使う通信量は増えている。この二つが相殺どころか上乗せになっているケースは珍しくありません。
現場から出るのは「あの日だけ」「あの席だけ」という声
現場は通信量の話をしません。出てくるのは、「水曜の午後だけ会議が固まる」「窓際の席に座った日はつながりにくい」「打ち合わせスペースだと画面共有が止まる」といった、日と場所に紐づいた症状です。
実は、この言い方こそが手がかりになります。特定の曜日に集中するなら出社の偏り、特定の席や部屋だけなら無線の電波やアクセスポイントの配置、在宅の人だけが不安定ならVPNや出口側、といった具合に、切り分けの入口がそこにあるからです。
必要なのは高価な測定機器ではなく、まず記録です。いつ、どこで、誰が、何をしていたとき。この四点をメモに残すだけで、原因の候補はかなり絞れます。フリーアドレスを導入した会社では、座席が固定されていない分、場所の記録がとくに効いてきます。
「また元に戻るかもしれない」という警戒心が判断を止める
ひとり情シスや総務兼任の担当者からは、「投資すべきなのは分かっているが、働き方がまた変わるかもしれないので踏み切れない」という相談をよく受けます。
これは技術ではなく判断の問題です。全員出社に戻れば無駄になるかもしれないし、在宅がさらに増えれば社内への投資が意味を失うかもしれない。どちらに転ぶか分からないから動けず、上に説明する材料も作れない。
抜け出す方法はひとつです。どちらに転んでも無駄にならない部分から手をつけること。無線の電波状況の把握、通信量の記録、機器の棚卸し。これらは働き方が変わっても価値が残ります。逆に、方針が固まる前に大きな機器を入れ替えるのは順番として危うい選択になります。
ハイブリッド前提で見直すときの三つの基準
基準1:平均ではなくピークで設計する
設計の起点は、一年で一番混む日です。全社会議、期初のキックオフ、研修、月末の締め処理。こうした日の出社人数と、そのとき同時に動く会議の数を書き出してください。
会議室の同時利用は、とくに見落とされます。社内にいる人が別々の会議室から在宅の同僚とつなぐと、会議室の数だけ映像と音声が同時に外へ出ていきます。ケースによりますが、Web会議の映像は画質や設定によって一本あたり数Mbps規模を使い、参加者が画面共有を始めればさらに増えます。会議室が四つあり、そこに個人席からの参加が重なれば、会議だけで相当量が同時に流れる計算です。
ここで効いてくるのが上り方向の通信です。自分の映像を送る、資料をクラウドへ保存する、在宅の同僚へ画面を共有する。いずれも社内から外へ出ていく通信で、多くの回線は下りに比べて上りが細い設計になっています。下りの数字に余裕があるのに会議だけ乱れるなら、まず上りを疑ってください。
手順は四段階で足ります。一番混む日の条件を決め、その日の同時会議数と出社人数を置き、用途ごとの通信量を仮置きして積み上げ、いまの回線と機器で受けきれるかを確認する。粗くて構いません。数字の形にしておくこと自体が、社内で判断を通すための材料になります。
基準2:無線は「席」ではなく「面」で設計し直す
フリーアドレス、つまり座席を固定しない運用に変えると、無線の前提が根本から変わります。席が決まっていた頃は、人がいる場所も端末の数も予測できました。いまは日によって、時間によって、人が寄る場所が動きます。
よくあるのが、窓際やカフェスペースのような居心地のいい場所に人が集中し、そこだけ極端に混むケースです。無線アクセスポイントは、一台がさばける同時接続数にも、電波の届く範囲にも上限があります。フロア全体で見れば台数は足りているのに、人が寄る一角だけ足りない。この状態は、平均では絶対に見つかりません。
考え方としては、席の数ではなく面積と人の寄り方で配置します。フロアを区画に分け、それぞれの区画に何人が同時にいる可能性があるかを置き、区画ごとに必要な台数を見る。加えて、隣り合うアクセスポイント同士が電波で干渉しないよう、出力とチャンネルの調整も必要になります。台数を増やせば増やすほど良くなるわけではない、という点は押さえておきたいところです。
なお、無線は電波を扱う設備であり、機器の設置や設定には電波法をはじめとする法令上の要件が関わります。制度は変わる前提で捉え、最新の要件は所管省庁や公式情報で確認してください。配線工事や電源工事を伴う場合は、有資格者による施工が必要な範囲があります。
基準3:出口の集中点を先に押さえる
在宅勤務が増えると、社内と社外をつなぐ出口に負荷が集まります。ここが三つ目の基準です。
まずVPN、つまり社外から社内ネットワークへ安全に接続するための仕組みです。在宅の社員が全員つなげば、その通信は一箇所の機器を通ります。機器の同時接続数や処理能力に上限があるため、在宅人数が増えた時点で頭打ちになることがあります。実は、「在宅の人だけ遅い」という苦情の多くは、回線ではなくこの機器の限界に当たっています。
次にクラウドです。社内の全員がクラウド上のサービスを使い、在宅の社員も同じサービスを使う。このとき、在宅側の通信をいったん社内へ引き込んでから外へ出す構成にしていると、社内の出口に二重の負荷がかかります。クラウドへ直接出す構成にするかどうかは、安全性の考え方と合わせて判断する部分です。どちらが正解と断じられるものではなく、扱う情報の重さと運用体制で決まります。
もうひとつ、忘れられがちなのが機器の管理です。ノートパソコンやモバイルルーターを持ち出す運用になると、どの機器を誰が持っているのか、社内に残っている機器はどれか、が見えにくくなります。台帳が更新されていない状態でトラブルが起きると、原因の切り分け以前に「その端末はどの設定になっているのか」から調べる羽目になります。持ち出しの記録と設定の統一は、地味ですが効果の大きい備えです。
名古屋のオフィス事情と、どこまで自社で見るか
築年数の経ったビルでは、置きたい場所に置けないことがある
名古屋の中心部には、長く使われてきたオフィスビルが数多くあります。こうした建物は、配線を通せるルートや電源の位置、天井の構造に制約があることが少なくありません。
フリーアドレス化に合わせて無線アクセスポイントを増やそうとしたとき、理屈のうえで最適な位置に電源も配線も来ていない、という状況はよく起きます。壁や柱の材質によって電波の通り方が変わる点も、図面だけでは判断しきれません。加えて、共用部の工事には管理会社の承認が要ることもあります。
だからこそ、レイアウト変更と設備の検討は同時に進めるのが現実的です。席の配置を決めてから配線を考えると、手戻りが出ます。愛知圏では本社と郊外の工場・倉庫を抱える構成も多く、建物ごとに条件が違うため、拠点ごとに見ていく必要があります。
在宅側の環境は、会社がどこまで面倒を見るか
ここは技術より先に、方針を決める話です。線引きが曖昧なままだと、担当者に際限なく相談が集まります。
現実的な選択肢は、いくつかの段階に分かれます。会社は貸与端末と接続手段だけを用意し、自宅の回線や無線環境は個人の責任とする。あるいは、モバイル回線を会社が支給して、自宅回線に依存しない形にする。さらに踏み込んで、自宅側の無線環境の相談まで受ける。どれが正しいということはなく、コストと運用負荷のどこで折り合うかの判断です。
決めておきたいのは三点です。会社が支給する範囲、社員が自分で用意する範囲、そして「つながらない」と言われたときに誰がどこまで調べるか。この三つを文書にしておくだけで、担当者の負担はかなり変わります。ケースによりますが、明文化されていない会社ほど、担当者が個人の自宅環境の相談まで抱え込みがちです。
自社でやること、外部に任せること
自社でやるべきなのは、実態の把握と方針の決定です。曜日別の出社人数、会議室の使われ方、どの席に人が寄るか、在宅人数の推移、持ち出している機器の一覧。これらは社外の誰にも分かりません。ここを持たずに相談すると、話が一般論で終わります。
外部に任せたいのは、測定と設計、そして工事です。無線の電波状況の実測、アクセスポイントの配置設計、出口側の機器の選定、配線や電源の工事。とくに電気や通信の設備工事は有資格者による施工が必要な範囲があり、自社作業で済ませるべきではありません。
境目の目安は、こう考えると分かりやすくなります。事実を集めて方針を決めるまでが自社、原因を測って設計し直すところからが外部。この線引きができていると、見積もりの精度も上がり、比較検討もしやすくなります。
こういう会社は今すぐネットワークの見直しに着手すべき
- 在宅勤務やハイブリッド勤務を始めてから一年以上経つのに、回線契約も社内機器も一度も見直していない
- フリーアドレスや座席の削減を実施した、または実施を予定しているが、無線アクセスポイントの配置は以前のままになっている
- 「特定の曜日だけ」「特定の場所だけ」つながりにくいという声が、月に何度も出ている
- 在宅の社員から接続が不安定という報告が増えているが、原因が回線側なのか接続の仕組み側なのか切り分けられていない
- 会議室でのWeb会議が増え、複数の部屋で同時に会議が行われる日が常態化している
- 持ち出している端末やモバイル機器の台帳が最新の状態に保たれていない
ひとつでも当てはまるなら、まずは一か月分の出社人数と、苦情が出た日時・場所の記録から始めてください。見直しは、設備を入れ替えると決める作業ではありません。入れ替えが必要なのかを判断するための材料を作る作業です。
よくある質問
Q1. 出社率が下がったのに、社内のWi-Fiが遅くなったのはなぜですか?
人数が減っても通信量が減るとは限らないためです。社内にいる人もWeb会議を使うようになり、一人あたりの通信量が増えています。加えてフリーアドレス化で人が一箇所に寄れば、その区画のアクセスポイントだけが混雑します。総数ではなく分布を見てください。
Q2. 出社率は何割を基準に設計すればよいですか?
平均ではなく、一年で一番混む日の出社率を基準にしてください。全社会議や研修日など、条件が読める日があるはずです。その日を受けきれる設計にしておけば、通常日は余裕をもって動きます。逆に平均で組むと、半分の日で足りなくなります。
Q3. 無線アクセスポイントは増やせば増やすほど良くなりますか?
そうとは限りません。近い場所に置きすぎると電波が干渉し、かえって不安定になることがあります。台数と同じくらい、設置場所、出力の調整、使用する周波数の割り当てが効きます。実測をもとに設計するのが確実です。
Q4. 在宅の社員だけ接続が不安定です。原因はどこにありますか?
社内側の出口、在宅側の回線、その人の自宅の無線環境という三つの可能性があります。複数の在宅社員に同時に起きているなら社内側の機器や回線、特定の人だけなら自宅側を疑うのが基本です。まず「誰に起きているか」を確認してください。
Q5. フリーアドレスにすると、必ず無線を増強する必要がありますか?
必ずではありません。ただし、人が寄る場所が変わる以上、いまの配置のままで足りるかは確かめる必要があります。実測して十分であればそのまま使えますし、一部の区画だけ補えば足りることもあります。全面的な入れ替えを前提にする必要はありません。
Q6. 持ち出した端末の管理は、どこから手をつけるべきですか?
台帳の整備からです。どの機器を誰が持っているか、社内に残っているのはどれか。これが分かっていないと、トラブル時の切り分けも、更新時期の把握もできません。台帳が整ってから、設定の統一や紛失時の対応手順へ進むのが順序として無理がありません。
Q7. 働き方がまた変わるかもしれません。どこまで投資すべきですか?
方針が固まるまでは、どちらに転んでも価値が残る部分に絞るのが安全です。通信量や電波状況の記録、機器の棚卸し、症状の記録。これらは働き方が変わっても使えます。大きな設備投資は、出社の方針が定まってからでも遅くありません。
まとめ
ハイブリッドワークで起きているのは、負荷の減少ではなく移動です。社内の人数は減っても、会議は外へつながり、クラウドへの通信は増え、在宅からの接続が出口に集まります。総量ではなく分布を見る。これが出発点になります。
設計の基準はピークです。平均出社率で足りる設計は、混む日に必ず足りません。一年で一番混む日の条件を先に決めてしまえば、判断の軸はぶれなくなります。
無線については、席ではなく面で考えてください。座席が固定されない環境では、人が寄る場所が日によって動きます。フロアを区画に分け、区画ごとに人の集まり方を見る。この視点があるかないかで、増設の当たり外れが変わります。
そして、社内と在宅の境界線を文書にしておくこと。会社が用意する範囲、社員が自分で用意する範囲、トラブル時に誰がどこまで調べるか。ここが決まっていない会社では、担当者がひとりで抱え込む状態が続きます。名古屋・愛知のように本社と工場、複数拠点を抱える構成なら、拠点ごとに条件も違います。まず何から手をつけますか?
法人ネットワーク構築とは何か|遅い・不安定を生む原因と設計構造の全体像を整理
ネットワークの遅さや不安定さは、回線だけでなく機器の配置や設計構造に原因があることも少なくありません。法人ネットワーク構築の基本から、トラブルを防ぐ設計の考え方まで詳しく解説しています。
▶︎法人ネットワーク構築とは何か|遅い・不安定を生む原因と設計構造の全体像を整理
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