
インターネット回線が切れても業務を止めないために、モバイル回線を予備として持つ設計の考え方と判断の手順を解説します。
回線は、いつか切れます。事業者の障害、工事による断、ビル側の設備トラブル、災害。原因はさまざまですが、「切れない回線」というものは存在しません。
だからこそ、切れた時にどう振る舞うかを先に決めておく。それが回線の冗長化です。最近は光回線とは別にモバイル回線(LTE/5G)を予備として持ち、自動で切り替える構成が現実的な選択肢になっています。
正直なところ、多くの会社で回線は「動いていて当たり前のもの」として扱われています。止まって初めて、受注も出荷も請求も電話までも一本の線にぶら下がっていたと気づく。その気づき方が、いちばん高くつきます。
この記事のポイント
- 回線の冗長化とは、インターネットへの出口を複数持つことです。社内の機器を二重にする話とは別で、ここでは「外に出る道」を二本にする話に絞ります。道が一本しかない限り、どれだけ社内の機器を丈夫にしても、外側で切れた瞬間に業務は止まります。
- 予備回線は「別事業者・別経路」でなければ意味が薄れます。同じ事業者の同じ設備を通っているなら、障害の時に仲良く一緒に止まります。だからこそ、有線とは物理的に経路の異なるモバイル回線が予備として選ばれやすいわけです。
- 名古屋・愛知は本社と工場、倉庫、店舗が離れて点在している会社が多い地域です。拠点ごとに「止まった時の痛み」がまったく違うため、全拠点に同じ備えを入れるのではなく、優先順位をつけて配る発想が要ります。
この記事の結論
一言で言うと、予備回線は「保険」ではなく「業務を続ける仕組み」です。入れて安心するものではなく、切り替わった状態でも最低限の仕事が回るかどうかまで設計して、初めて役に立ちます。
最も重要なのは、止まった時に何がどれだけ失われるかを先に数えることです。損失が見えていないと、費用の判断も、どこまで備えるかの線引きもできません。ここを飛ばした冗長化は、たいてい過剰か不足のどちらかになります。
失敗しないためには、「切り替わるまでの時間」と「切り替わった後に通せる量」を分けて考えてください。ケースによりますが、この二つを混同したまま契約すると、切り替わったのに結局仕事にならない、という一番もったいない結果になります。
「うちが止まったら何が止まるのか」に、誰も答えられない
回線の冗長化が進まない理由は、費用よりも先に「必要性を説明できないこと」にあります。
とりあえず再起動して、あとは復旧を待つしかない
回線が落ちた時、担当者がまずやるのはルーターの再起動です。それで直らなければ、事業者のサポートに電話して、障害情報のページを開いて、ひたすら待つ。実は、この「待つ」以外に手がない状態こそが問題の本体です。
技術力の問題ではありません。出口が一本しかない構成では、社内で打てる手は最初から存在しないのです。にもかかわらず、周囲からは「まだ直らないの」と聞かれ続ける。何から手をつければいいか分からないまま、時間だけが過ぎていきます。
現場から出るのは「メールが」ではなく「電話も出られない」という声
よくあるのが、回線が切れた時に電話まで巻き込まれるケースです。クラウドPBXやIP電話を使っていれば、インターネットが切れた時点で発着信ができなくなります。
さらに、クラウド会計、勤怠、在庫管理、受発注のシステム。今はほとんどが外にあります。だから止まるのは「インターネット」ではなく、業務そのもの。現場からは「何もできない」という声がまとめて上がってきます。この体験をした会社は、次の期の予算で冗長化を検討し始めることが多いです。
二重にすると倍かかるのでは、という警戒心
一方で、担当者の頭をよぎるのは費用です。回線をもう一本引けば、単純に維持費が倍になるのではないか。上に説明したら「そこまで必要か」と返されるのではないか。
この警戒心はまっとうです。ただ、予備回線は本回線と同じ品質・同じ帯域で用意する必要はありません。非常時に何を通すかを絞れば、構成も費用も変わります。全部を守ろうとするから高くなるのであって、守る対象を決めれば話は現実的になります。
もう一つ、相談として多いのが「そんなに頻繁に止まるものなのか」という疑問です。頻度で言えば、確かに毎月起きるようなものではありません。ただ、冗長化の判断は頻度ではなく影響で行うものです。年に一度でも半日止まれば致命的な業務があるなら、その一度のために備える価値はあります。逆に、数日止まっても代替手段で回る業務しかないなら、優先度は下がります。
予備回線をどう選ぶか、判断の基準は三つ
先に、方式を整理しておきます。回線の冗長化には大きく三つの形があります。
一つ目は、光回線を二本、別々の事業者・別々の経路で契約する方法です。品質が安定しやすい反面、費用は上がり、ビルの引き込み経路が実質的に一本しかないと「別経路」になりません。
二つ目が、モバイル回線(LTE/5G)を予備にする方法です。SIMを挿したルーター、あるいはモバイル回線に対応したルーターを使い、有線とはまったく別の経路でインターネットに出ます。工事がほとんど不要で、比較的短期間で用意できるのが利点です。
三つ目は、ルーターの自動切替(フェイルオーバー)です。フェイルオーバーとは、主回線の異常を機器が検知して、自動的に予備回線へ通信を切り替える仕組みのこと。人が気づいて手で差し替えるのではなく、機器が判断します。これがないと、夜間や休日の障害に対応できません。
なお、ルーターやスイッチそのものを二重にする機器の冗長化もありますが、本記事の主題は外に出る道の話です。機器が生きていても道が切れれば止まる、という順序だけ押さえておいてください。
基準1:止まった時に、一時間あたり何が失われるか
まずは金額と業務で数えます。受注が入らない、出荷指示が出せない、店舗の決済が通らない、問い合わせ電話が鳴らない。それぞれが一時間止まると何が起きるかを、部門ごとに書き出してください。
数字は概算でかまいません。ケースによりますが、通販や受注を回線に乗せている会社と、社内の事務が中心の会社では、同じ一時間でも重さがまるで違います。ここが見えると、「どこまで払うか」の議論が感情論から抜け出します。
そして、この一覧はそのまま稟議の材料になります。上に説明できないという悩みの大半は、損失を言語化していないことが原因です。
基準2:切り替わるまでに、何分までなら許せるか
次に、切替時間です。手動で予備のルーターに差し替える運用なら、気づいてから復旧まで数十分はかかりますし、担当者が不在なら朝まで止まります。自動切替なら、機器の設定にもよりますが数十秒から数分程度で切り替わる構成が一般的です。
ここで決めるべきは、「何分止まっても業務上は許せるか」という社内の合意です。工場の生産管理や店舗の決済のように、数分でも痛い業務があるなら自動切替は必須に近くなります。逆に、事務作業が中心で半日程度なら耐えられるなら、常時待機まで作り込まない選択もあります。
なお、切り替わったこと自体に誰も気づかない、というのもよくある落とし穴です。切替時に管理者へ通知が飛ぶようにしておかないと、予備で走り続けたまま従量課金が積み上がります。
基準3:常時使うのか、非常時だけか。帯域と課金をどう握るか
最後が使い方です。予備回線を普段は完全に眠らせておく方式と、日常的に一部の通信を流しておく方式があります。眠らせる方式は費用を抑えやすい一方、いざという時に本当に繋がるかを定期的に確かめる運用が要ります。普段から少し流しておけば、生きているかどうかは常に分かります。
帯域については、予備に本回線と同じ量を求めないことです。非常時に通すものを、たとえば電話、受発注システム、メール、決済に絞る。逆に、動画の視聴、大容量ファイルの同期、バックアップは止める。そういう優先順位をルーター側で決めておけば、細い回線でも仕事は続きます。
そして料金体系です。モバイル回線には、使った分だけ課金される形態や、一定量を超えると速度が制限される形態など、いくつかの考え方があります。障害が長引いた時に想定外の請求にならないよう、契約前に上限の扱いを必ず確認してください。ここは事業者やプランによって差が大きい部分です。
名古屋の拠点事情と、自社でやる範囲・外部に頼む範囲
同じ会社でも、拠点によって最適解は変わります。地域の事情も無視できません。
同じビル・同じ引き込みでは「別経路」にならない
回線を二本契約したのに、実は同じ管路を通り、同じ設備を経由していた。これは珍しい話ではありません。特にテナントビルでは、共用部の配管や引き込み口が限られていて、物理的に経路を分けられないことがあります。
名古屋の中心部には、竣工から年数の経ったオフィスビルも多く残っています。共用部の設備に空きがない、増設には管理会社の承諾と工事の時間帯調整が要る、といった制約が先に立つケースは多いです。だからこそ、経路が確実に分かれるモバイル回線が予備として選ばれやすいわけです。
工場・倉庫・多拠点は、拠点ごとに答えを変える
愛知県は製造業の工場や物流倉庫が広く点在し、本社と現場が離れている会社が多い地域です。倉庫では電波が届きにくい場所があり、モバイル回線を予備にするなら、屋外に近い場所へアンテナを出すなどの検討が必要になります。
拠点の性格も違います。出荷が止まると即座に納期に響く倉庫と、事務中心の営業所とでは、備えるべき水準が同じであるはずがありません。全拠点一律に入れるのではなく、痛みの大きい拠点から順に配る。これが現実的な進め方です。
どこまで自社でやり、どこから外部に頼むか
自社でやりやすいのは、止まった時に困る業務の洗い出し、優先順位づけ、切替時の社内連絡ルール、そして定期的な切替テストの実施です。ここは現場を知っている人にしか決められません。
外部に頼むべきは、経路が本当に分かれているかの確認、ルーターの選定とフェイルオーバー設定、切替時に何を通し何を止めるかの設計、監視と通知の仕組みです。ビルへの引き込みや宅内の配線工事、電気設備に関わる作業は、有資格者による施工が必要になります。
線引きの目安は「判断は自社、設定と工事は外部」。逆にすると、業者の提案がそのまま自社の優先順位になってしまい、要らないところに費用がかかります。
外部に相談する時は、機器の型番から入らないことです。「回線が止まった時にこの業務だけは続けたい」「切替は何分以内であってほしい」「夜間に切り替わったら誰に通知してほしい」。この三つを伝えれば、構成の提案はそれに沿って出てきます。要件を先に言葉にしておくと、見積もりの比較もしやすくなります。
こういう会社は今すぐ予備回線を検討すべき
- 電話をクラウドPBXやIP電話に移行済みで、インターネットが切れると発着信もできなくなる会社
- 受注、出荷指示、決済、勤怠など、止まると即座に売上や納期に響く業務をクラウド上で回している会社
- 過去一年以内に、原因の分からない通信断や長時間の障害を一度でも経験している会社
- 拠点が複数あり、本社の回線を経由して各拠点が外に出る構成になっている会社
- 情シスが兼任またはひとりで、夜間・休日に障害が起きても現地に行ける人がいない会社
- 回線が止まった時の連絡手順や代替手段が、文書として残っていない会社
一つでも当てはまるなら、まずは「止まった時に何が止まるか」の一覧を作るところから始めてください。機器の購入や契約より先です。順番を逆にすると、入れたのに使えない予備回線ができあがります。
よくある質問
Q1. モバイル回線を予備にすれば、本回線と同じように仕事ができますか?
同じにはなりません。非常時に通す業務を絞る前提で考えてください。電話、メール、受発注、決済のように優先度の高いものを通し、動画やバックアップ、大容量の同期は止める設計にしておけば、実務は十分に回ります。
Q2. 費用はどれくらい見ておけばよいですか?
ケースによりますが、モバイル回線の月額と、フェイルオーバーに対応したルーターの費用、設定作業の費用が基本の内訳です。金額は契約する回線のプランや拠点数、既存機器を流用できるかどうかで大きく変わるため、複数の構成で見積もりを取って比べるのが確実です。
Q3. 自動切替は本当に自動で戻りますか?
主回線が復旧したら自動で戻る設定にできる機器が一般的ですが、戻す条件は機器や設定によって異なります。復旧直後にまた不安定になることもあるため、すぐ戻さず一定時間様子を見てから戻す設定が使われることもあります。導入時に確認しておきたい点です。
Q4. 予備回線は普段まったく使わなくても大丈夫でしょうか?
放置は避けてください。いざ切り替わった時に、契約が止まっていた、SIMが期限切れだった、機器の設定が古いままだった、という事態が起こり得ます。定期的に切替テストを行うか、日常の通信を少量だけ流して生存を確認する運用をおすすめします。
Q5. 停電した場合はどうなりますか?
回線が生きていても、ルーターや電話の機器に電源が来なければ通信はできません。回線の冗長化と電源の備えは別の話です。最低限、通信機器と電話の主装置をUPS(無停電電源装置)で守る構成を、あわせて検討してください。
Q6. 拠点が複数ありますが、全部に入れるべきですか?
必要ありません。止まった時の損失が大きい拠点から順に入れるのが基本です。本社を経由して各拠点が外に出ている構成なら、まず本社側から。拠点ごとに独立して外に出ているなら、業務の重さで順位をつけてください。
Q7. 工事は必要ですか。どれくらいの期間がかかりますか?
モバイル回線を予備にする場合、光回線の引き込みに比べれば準備は短くて済むことが多いです。ただし、電波状況の確認、アンテナや機器の設置場所、電源の確保、配線作業が必要になる場合があります。建物や電気設備に関わる工事は有資格者による施工が必要です。
まとめ
回線の冗長化は、技術の話に見えて、実際は業務設計の話です。どの業務を止めてはいけないのかを決めた人が、そのまま構成を決めることになります。
正直なところ、この判断を情シスだけに背負わせるのは無理があります。一時間止まった時に何が失われるかを知っているのは、営業であり、製造であり、経理です。だから最初の一歩は、機器選びではなく社内での棚卸しになります。
そのうえで、別事業者・別経路であること、自動で切り替わること、切り替わった後に何を通すかが決まっていること。この三つが揃えば、回線が切れても業務は続きます。全部を守る必要はありません。守る順番を決めるだけです。
名古屋・愛知のように拠点が点在する会社ほど、拠点ごとの優先順位づけが効いてきます。まずは自社の一番痛い拠点から。あなたの会社では、回線が止まった時にいちばん困るのはどの業務でしょうか。
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