
電話をクラウドに移すべきか、今の主装置を使い続けるべきかを、自社の条件から切り分けて判断する方法を解説します。
クラウドPBXは、すべての会社にとっての正解ではありません。向く会社と、そうでない会社が、はっきり分かれます。
判断を分けるのは価格ではなく、拠点の数、在宅勤務の有無、電話の量、そして社内ネットワークの安定度。この四つを自社の言葉で書き出せた時点で、答えはほぼ出ています。
正直なところ、多くの担当者はこの四つを整理する前に見積書を集め始めてしまいます。だから比較しても決まらない。数字の大小ではなく、条件の違いを先に見るべきなのです。
この記事のポイント
- クラウドPBXは「主装置という箱を社内に置かず、インターネット経由で電話を使う仕組み」です。拠点間の内線が距離に関係なく使える、席の増減がすぐできる、外出先や自宅のスマホで会社番号を受けられる、という利点は確かに大きい。ただしその利点はすべて、ネットワークがきちんと動いていることを前提にしています。
- 一方で従来型のビジネスフォンにも、いまだに明確な出番があります。一拠点で席がほぼ固定されている、通話量が多く常時何本も同時に鳴る、ドアホンや放送設備と連動している、といった環境では、社内の主装置で完結させたほうが素直です。新しいほうが常に良い、という話ではありません。
- 名古屋・愛知では、本社は市内のオフィスビル、工場や倉庫は郊外、そこに営業所が数か所、という構成の会社が珍しくありません。拠点が散っているほどクラウド側の利点は効きますが、築年数のあるビルや広い工場では社内配線と電波のほうが先に問題になります。電話の検討が、そのままネットワークの棚卸しになるケースが多いのです。
この記事の結論
一言で言うと、クラウドPBXか従来型かは「どちらが優れているか」ではなく「自社の働き方がどちらの前提に合っているか」で決まります。拠点が複数あって人が動く会社ほどクラウド寄り、一拠点で電話が鳴り続ける会社ほど従来型寄り。まずはこの大きな傾向を押さえてください。
最も重要なのは、社内ネットワークの状態を先に確認することです。クラウドPBXの通話品質は、回線とLANの品質にそのまま乗ります。電話の見積もりを取る前に、今のインターネット回線とスイッチ、無線LANがどんな状態かを把握しておくこと。ここを飛ばすと、導入後に「聞こえにくい」という話が必ず出ます。
失敗しないためには、決める前に三つを書き出すことです。今ある電話番号の一覧と、その番号がどこから発番されたものか。同時に何本まで話す必要があるか。そして停電や回線障害のとき、どの電話が生きていてほしいか。この三つが埋まれば、業者との会話は一気に具体的になります。
見積書を三社分そろえた時点で、止まってしまう
比較表を作ったのに、決め手が出てこない
よくあるのが、ひととおり資料を集めたところで手が止まるパターンです。月額、初期費用、電話機の台数、保守の範囲。表にまではできる。けれど、その表を見ても「うちはどっちなのか」が出てこない。
理由ははっきりしています。比較しているのが価格と機能だけで、自社の条件が表に入っていないからです。拠点がいくつあって、そのうち何人が社外から電話を受ける必要があるのか。ピーク時に何本同時に鳴るのか。そこが空欄のまま並べても、優劣は決まりません。
ひとり情シスや総務兼任の担当者ほど、この状態で長く止まります。電話は毎日使うインフラなので、判断を間違えれば社内全員に影響する。慎重になるのは当然です。
「今の電話で困っていない」という現場の声
現場に聞くと、たいてい返ってくるのは「特に困っていない」という答えです。実は、これは電話に不満がないという意味ではありません。困りごとが電話の問題として認識されていないだけ、というケースがかなりあります。
たとえば、外出中の担当者宛の電話を毎回携帯へかけ直している。在宅の日は誰かが用件を聞いてメールで回している。営業所から本社へ電話するとき外線でかけている。どれも回っているので、誰も問題として口に出しません。
こうした手間は、時間として記録されないので数字にも出ません。だからこそ、現状の聞き取りでは「不満はあるか」ではなく「電話のためにどんな手間をかけているか」を聞くほうが、実態が見えます。
止まったときどうなるのか、が最後まで消えない
担当者が最後まで引っかかるのは、たいてい障害時の話です。インターネット経由ということは、回線が切れたら電話も切れるのではないか。停電したら受注の電話が全部取れなくなるのではないか。上に説明するとき、ここを詰められると答えられない。
この不安は正しい警戒心です。ごまかさずに設計へ織り込むべき論点であって、「大丈夫です」で流していい話ではありません。実際、クラウドPBXでも従来型でも、電源と回線が両方落ちれば社内の電話機は使えなくなります。
違いが出るのは、そのときの逃げ道です。クラウドPBXならスマホアプリが携帯回線に乗って動く場合があり、オフィスが停電していても会社番号での受電を続けられる可能性があります。従来型ならアナログ回線を一本残しておく、という古典的な備えが効く。どちらにしても、事前に決めておかないと使えません。
クラウドPBXと従来型を分ける、三つの判断基準
基準1:拠点の数と、人が働く場所
最初の分かれ目は、拠点数と働く場所です。拠点が二つ以上あり、そのあいだで日常的に連絡を取り合っているなら、クラウドPBXの利点がそのまま効きます。本社と工場、営業所のあいだが内線でつながり、距離による通話料の考え方が変わるからです。
在宅勤務やテレワークがあるかどうかも、同じ軸で見ます。自宅や外出先のスマホを内線として扱い、会社の番号で発着信できる。これは従来型の主装置では簡単にはいきません。担当者個人の携帯番号を取引先に教えずに済む、という点も実務では大きい。
逆に、一拠点で全員が出社しており、席もほぼ固定。外から会社番号を使う必要がない。この条件なら、クラウド化の利点の半分以上は使わないまま費用だけ払うことになります。ケースによりますが、この場合は今の主装置を保守しながら使い切るほうが合理的です。
基準2:通話の量と、電話の使い方
次に見るのが通話量です。同時に何本の通話が発生するか、一日にどれくらい鳴るか。ここは感覚ではなく、可能な範囲で実数を出してください。今の主装置の外線本数と、繁忙時間帯の取りこぼしの有無が手がかりになります。
同時通話が多い環境では、その本数ぶんの音声がすべてインターネット回線を通ります。回線の実効速度だけでなく、遅延やゆらぎ、パケットの取りこぼしが品質に直結する。通販の受注窓口や修理受付のように電話が鳴り続ける業務では、ここを甘く見ると痛い目に遭います。
使い方の癖も判断材料です。ドアホンや構内放送、警備設備、複合機のFAXなどが主装置と連動しているなら、その連携をどう引き継ぐかが論点になります。実は、こうした周辺機器の存在が判明するのは見積もりの後半であることが多く、そこで前提が崩れる。先に洗い出しておくべき部分です。
基準3:ネットワークと電源の安定度
三つめが、ネットワークと電源です。クラウドPBXは、社内LANとインターネット回線の上に電話が乗る構成になります。つまり、回線が不安定な拠点では電話も不安定になる。ここは仕組み上どうしようもありません。
確認したいのは、拠点ごとの回線種別と契約速度、混雑時間帯の実測、無線LANの電波の届き方、スイッチの世代とLAN配線の規格です。音声を優先的に通す設定ができる機器かどうかも効きます。工場や倉庫のように広くて金属が多い環境では、電波の届き方が場所によって大きく変わる点にも注意が必要です。
停電対策も同じ枠で考えます。ルーターやスイッチが無停電電源装置につながっていなければ、停電と同時にネットワークが落ち、電話も落ちる。従来型の主装置にもバックアップ電源の有無という同じ論点があります。どちらを選ぶにせよ、「何分もたせたいのか」を先に決めてください。
名古屋の事情と、自社と業者の線引き
築年数のあるビルでは、電話より先にLANが問題になる
名古屋市内には、長く使われてきたオフィスビルが多く残っています。こうしたビルに入居していると、フロア内の配線が古い規格のまま、情報分電盤に空きがない、天井裏に新しいケーブルを通す経路が確保しづらい、といった条件に当たることがあります。
クラウドPBXの導入検討が、そのまま配線と機器の更新の話に発展するのはこのためです。電話機をIP化するなら、その台数ぶんのLANポートと、電話機へ電源を供給する仕組みが必要になります。今のスイッチにその機能がなければ、機器の入れ替えが前提になる。
郊外の工場や倉庫では、また事情が違います。敷地が広く、事務所と現場が離れている。この場合、無線でつなぐ範囲をどこまで広げるかが検討の中心になります。電話の話をしているつもりが、気づけば無線LANの設計をしている、というのはよくある流れです。
どこまで自社でやり、どこから外部に頼むか
自社でやるべきことは、情報の棚卸しです。契約している電話番号の一覧と、それぞれの回線種別。内線の数と、実際に使われている台数。拠点ごとの人数と在宅の頻度。繁忙時間帯の通話の混み具合。これらは社内にしか答えがなく、外部の業者には調べようがありません。
外部に頼むのは、測るところと工事するところです。回線品質の実測、LAN配線の敷設と更新、ネットワーク機器の設定、番号を移す手続き、電話機の設置と設定。とくに構内の通信配線工事は、工事担任者などの資格が関わる領域で、有資格者による施工が必要になります。法令や資格の要件は変わりうるため、最新の内容は所管省庁や公式情報で確認してください。
この線引きをはっきりさせておくと、業者との打ち合わせが早く進みます。逆に曖昧なままだと、「そちらで調べてもらえると思っていた」という行き違いが工事直前に発覚する。それが一番やっかいです。
見積もりを取る前に、渡しておきたい情報
見積もりの精度は、渡した情報の量でほぼ決まります。フロアの見取り図、電話機を置く位置と台数、既存の主装置の型番と設置場所、インターネット回線の契約内容、周辺機器の一覧。この五点があると、話が具体化します。
あわせて、既存の番号をどうしたいかも最初に伝えてください。今の会社番号を引き継げるかどうかは、その番号がどこから発番されたものか、どの事業者へ移すのかによって変わります。引き継げないなら別の番号になり、名刺も看板も刷り直し。金額より先に確認すべき条件です。
見積書を受け取ったら、月額と初期費用だけでなく、保守の範囲と障害時の連絡窓口、契約期間と解約の条件を見てください。ケースによりますが、この三つの差のほうが、月額数百円の差より後々効いてきます。
こういう会社は今すぐ電話の棚卸しを始めるべき
- 拠点が二つ以上あり、拠点間の連絡に外線を使っている。内線化するだけで日々の手間と通話の扱いが変わる可能性が高い会社です。
- 在宅勤務や直行直帰があり、担当者の個人携帯へ転送している。会社番号を持ち出せる仕組みがないまま運用でしのいでいる状態です。
- 主装置の保守サポートが終了しているか、終了時期が近い。壊れてから探すと、選択肢がほぼなくなります。
- 移転や増床、人員の増減が一年以内に予定されている。電話の設計は、その計画とセットで考えるべきものです。
- 電話の取りこぼしが起きている自覚がある、あるいは繁忙期に話し中が発生している。同時通話数の見直しが必要なサインです。
- インターネット回線が一拠点一本のままで、予備がない。クラウド化を検討するなら、ここが先に効いてきます。
この中に一つでも当てはまるなら、決断より先に現状の把握です。番号、台数、回線、周辺機器。この四つを一枚の紙にまとめるだけで、比較検討の質が変わります。
よくある質問
Q1. クラウドPBXにすると電話代は安くなりますか?
安くなる会社もあれば、変わらない会社もあります。拠点間の通話が多い会社ほど下がりやすく、一拠点で外線中心の会社では効果が限定的です。月額は席数で積み上がる形が一般的なので、席が多いほど固定費は増えます。現在の通話明細と内線構成を突き合わせて試算してください。
Q2. 今の会社の番号はそのまま使えますか?
使える場合と使えない場合があります。その番号がどこから発番されたものか、どの事業者のサービスへ移すのかによって扱いが変わり、制度や各社の対応も変わりうる領域です。ここは提供事業者へ番号を提示して個別に確認するのが確実です。使えない前提で代替案も並行して考えておくと安全です。
Q3. 停電したら電話は使えなくなりますか?
社内の電話機は、電源が落ちれば使えなくなります。これはクラウドPBXでも従来型でも同じです。違いは逃げ道の作り方で、クラウド側ならスマホアプリを携帯回線で使い続けられる可能性があり、従来型ならアナログ回線を一本残す備えが効きます。どちらも事前設計が前提です。
Q4. 通話品質は本当に落ちるのですか?
落ちるかどうかはネットワーク次第で、仕組み自体の優劣ではありません。遅延やゆらぎ、パケットの取りこぼしが大きい環境では、途切れや音の遅れが出ます。逆に回線と社内LANが安定していれば、日常業務で不足を感じないことも多い。導入前に実測しておくのが唯一の確実な手です。
Q5. 今使っている電話機はそのまま使えますか?
多くの場合、そのままでは使えません。従来型の専用電話機は主装置とセットで動く設計のため、クラウド側へ移すならIP電話機やスマホアプリへの置き換えが基本になります。台数が多い会社では、この機器費用が総額を左右します。見積もりの段階で必ず内訳を確認してください。
Q6. FAXやドアホン、放送設備はどうなりますか?
別途の検討が必要です。FAXは回線の種類によって送受信の安定度が変わり、ドアホンや構内放送は主装置と連動していることが多いため、そのまま移せるとは限りません。実は、この確認漏れが導入後のトラブルで最も多い部類に入ります。現地調査の前に一覧を出しておきましょう。
Q7. 一部の拠点だけクラウドにすることはできますか?
構成によっては可能で、段階的に移す進め方も現実的です。まず新設拠点や在宅の人員から始め、既存の主装置は保守期限まで使い切る。そのあいだ両方をどうつなぐかが設計の要点になります。移行の順番と期限を決めずに始めると、中途半端な二重運用が長引くので注意してください。
まとめ
クラウドPBXと従来型の選択は、新旧の対決ではありません。拠点が散っていて人が動く会社にはクラウドが効き、一拠点で電話が鳴り続ける会社には従来型の素直さが効く。それだけの話です。
判断軸は四つ。拠点数、在宅の有無、通話量、ネットワークの安定度。この四つを埋めれば、どちらに寄せるべきかはおのずと見えてきます。埋まらないうちは、どれだけ見積書を並べても決まりません。
そして忘れてはいけないのが、止まったときの想定です。停電と回線障害のとき、どの電話が生きていてほしいのか。ここを先に決めておくと、必要な備えも、かける費用の上限も自然に定まります。
正直なところ、電話の見直しは後回しにされがちなテーマです。今日も普通に鳴っているから。けれど壊れてからでは選択肢が減り、慌てて決めた構成は数年残ります。まずは番号と台数の一覧づくりから。あなたの会社では、何から手をつけますか?
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